現在どのような経済問題が注目されているのか。中村勝克ゼミでは、毎週、「日本経済」、「先進国経済」、「新興国経済」に関する各紙の新聞記事を持ち寄ってディスカッションをしています。その中でも特に重要と考えた話題をピックアップし、このブログで月ごとに報告していきます。今回は1月6日から1月20日といった比較的短期間の中から3つのトッピクを選択しました。
日本経済については、貿易収支が昨年通年で赤字になったことを報じた「貿易赤字 最大の12.7兆円」を取り上げました。また先進国経済は「欧州中銀が量的緩和 月600億ユーロ、16年9月まで」というタイトルで,ECBも量的緩和に打って出たことをまとめています。最後の新興国経済ですが、このブログでは初めて登場するカンボジア経済の話題、「カンボジア輸出入2桁増 14年 貿易赤字拡大懸念」です.なお、それぞれのテーマに関して担当学生が簡単な分析も加えています。切り口が不十分な部分もありますが,参考にしてもらえればと思います。
※ゼミにおける議論をベースにしているため、ピックアップされる話題は網羅的にならないこともあります。
※内容について大きな誤り等がある場合はお知らせください。
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【日本経済】
貿易赤字 最大の12.7兆円(読売新聞および日経新聞・1月27日の記事を参照)財務省が1月26日に発表した貿易統計によると、2014年の日本の貿易収支は12兆7813億円の赤字となり、赤字幅は比較できる1979年以降で最も大きかった。輸出額が73兆1052億円と前年より4.8%増えた一方で、輸入額は5.7%増の85兆8865億円と最大を記録し、輸出の伸びが鈍く、貿易赤字が拡大した形だ。
輸入の増加は、液化天然ガス(LNG)や半導体等電子部品が増えたことが主な要因となった。東日本大震災のあった2011年以降は、原油やLNGの輸入が増えたため貿易赤字が続いている。地域別では米国からの輸入額が5年連続で増加したほか、欧州連合(EU)、アジアからの輸入額が過去最大となった。
輸出は円安にもかかわらず期待ほど伸びていない。その原因は、大手企業が円高のときに生産拠点を海外へと移転したからだ。加えて、魅力的な海外製品が増えたことで、日本勢が押されているという側面もある。日本メーカーが強かった電子機器も、スマートフォンやパソコンなどは、国内でも中国製が伸びている。
一般に、円安が進むと短期的には貿易収支が悪化するが、長期的には輸出が拡大するため、貿易収支が改善するというJカーブ効果が働くと考えられている。日本ではまだこのメカニズムが機能していないのが現状だ。しかし、一部のメーカーで海外の生産拠点を再び日本へ戻す国内回帰の動きがあるなど、輸出増の動きが出てきている。大幅な原油安によって輸入額が減少し、輸出が伸び続ければ、貿易赤字は縮小の方向に向かう可能性がある。(大石)
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【先進国経済(北米、欧州等)】
欧州中銀が量的緩和 月600億ユーロ、16年9月まで(日経新聞(電子版)およびロイター・1月22日の記事を参照)ECBが訴える「原油安」の不安と「量的緩和」の必要性(ロイター・12月4日・31日・1月5日の記事を参照)
欧州中央銀行(ECB)は1月22日に開かれた政策決定理事会において、国債を買い取る「量的金融緩和」に踏み切る方針を決めた。3月から国債を含めたユーロ建ての資産の買い取りを月額600億ユーロ(約8兆円)の規模に拡大し、来年9月まで続ける見通しだ。かねてからデフレ懸念があったユーロ圏だが、これまでECBがとってきた金融政策は、政策金利を上げ下げする伝統的な手法だった。過去に日本やアメリカが国債の購入という非伝統的な政策を主軸に採用したが、ECBでは通貨ユーロの誕生(1999年)以来初となる。
ドイツやオランダなど比較的経済の安定した欧州北部の反対などがあったことから量的緩和は見送られてきた。しかし反対意見を押し切る構えとなったのは、やはりイタリアなど欧州南部の経済状況とユーロ圏全体のデフレ懸念が強いことの表れと言えるだろう。ここで重要になってくるのは、19の国で構成されるユーロ圏のそれぞれの国が、どれだけ国債の買い入れを実行するのか、また、どれだけのリスク負担を負うのか、ということである。量的緩和の設計次第で効果は変わってくるからだ。
記事によれば、国債の買い入れは、各国中銀のECBへの出資比率に応じて行われるとする。そしてギリシャやキプロスなど欧州連合(EU)/国際通貨基金(IMF)の支援プログラムを受けている国の国債も対象となることがわかった。リスクの面では、ECBのドラギ総裁が「買い入れの20%のみがECBの責任になる」と説明しており、損失の多くは各国の中央銀行が原則負担することとなっている。
ECBは市場のマネーの流動化で投資の拡大、さらには景気の回復というシナリオを描くが、高水準の債務を抱える特に南欧諸国の財政をさらに圧迫する可能性や、ユーロ圏の結束を揺るがす可能性は否定できない。今回のECBによる量的緩和策が果たして本当にデフレからの脱却、物価上昇率2%の政策目標に望ましい効果を発揮するのかどうか今後も注視したい。(レオ)
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【新興国経済(BRICS、アジア等)】
カンボジア輸出入2桁増 14年 貿易赤字拡大懸念(SankeiBiz・1月20日の記事、および外務省のカンボジア基礎データ(1月31日閲覧)を参照)カンボジアの貿易額が拡大している。同国商業省によると2014年は前年比13.8%増の181億3500万ドルに達した。輸出が11.5%増の7憶9600億ドル、輸入は15.5%増の104億3900万ドルだった。内訳をみると、輸出は新規工場の設置などが相次いだこともあり、全体の8割を繊維・縫製品が占めた。輸入は繊維・縫製品の原材料に加え、建設関連機械が増加した。経済成長に伴い、自動車や家電製品なども増えている。
貿易額が増加する中、懸念されるのが貿易赤字だ。14年の貿易赤字は27億4000万ドルで前年の21億ドルから約1.3倍となった。専門家によると、成長著しい新興国では輸出が輸入に追いつかず、輸入超過となるのは避けられないとし、国外からの投資を加速させるなど、輸入増加にどのように対応するかが課題との見方を示した。
記事は、原油安に伴う輸入コストの低減に伴い、今年は貿易赤字を縮小できるだろうという指摘で結んでいる。しかし、果たして貿易赤字縮小は可能だろうか。筆者には「縮小は困難」と考える理由が二つある。
一つ目は貿易相手国である。2012年のカンボジアの貿易相手国の上位5か国のうちでASEAN加盟国は、輸出がシンガポール(8.4%)のみに対し、輸入はベトナム(13.1%)、タイ(10.1%)である。ASEANは、今年末に域内の貿易自由化を目指すAEC発足を予定しているが、カンボジアは輸出に比べた輸入を抑えておくことができるか。そして二つ目は、人件費の高騰である。同記事でも述べられる通り、カンボジアは人件費の高騰が発生している。このまま衣類関連の加工貿易を続けて人件費の高騰をカバーできるほどの収益をあげられるか。
貿易額の成長や人件費の高騰など、カンボジアは経済的に岐路に立たされているのだろう。どのような政策がとられ、どのような成長を遂げていくか、注目したい。(おいとま)