先月分のブログ(2016年5月のマクロ的な経済問題)でも触れたBrexitに関する英国の国民投票。「まさか!」といった6月23日の結果を受けて、本ゼミでも6月後半はこの話題に多くの時間を費やしました。今回のショックといわゆるリーマンショックの本質的な違いや、今後の英国経済とEU経済の行方、はたまた日本経済への影響などなど、マクロ経済学を学ぶ本ゼミにとって、まさに生きた教材を得た感じもします。
ただ、担当教員のポケットマネーから拠出している本ゼミの「外貨運用ミニ基金」に関しては別の話でして。当初、英国の国民投票について逆の結果を予想していたため、ゼミ生の総意で事前にドルとユーロのウェートを高めてしまいました。そのため英離脱決定直後は少しばかり冷や汗が出た次第です。
さて、今回は6月7日(火)から7月5日(火)までの新聞記事をベースに、日本経済、先進国経済(北米、欧州等)および新興国経済(BRICS、アジア等)について3つ選んでいます。日本経済は「英離脱、ドル不足と円高」というもので、英離脱決定直後に報道されたドル不足と急激な円高という一見矛盾する事象について考察を与えています。先進国経済もBrexit関連で、「米、追加利上げ遠のく」という記事になります。英国離脱が米国FRBの判断に影響を与えるといった内容が紹介されています。なお最後の新興国に関してはガラっと変えて、「リオ州が財政非常事態宣言発令」という話題を取り上げています。オリンピックを控えたブラジルでは、英国・EUの問題とは別に、大変な財政状況となっていることが確かめられます。
※ ゼミにおける議論をベースにしているため、ピックアップされる話題は網羅的にならないこともあります。
※ 内容については、基本的に学生の意見となります。大きな誤り等がある場合はお知らせください。
※ 次回のブログのアップは8月の半ば(2016年7月分のレポートのアップ)を予定しています。
【日本経済】
英離脱、ドル不足と円高
(日経新聞・6月27日の記事参照)
英国の欧州連合離脱決定を受け、世界の金融市場でドル不足が強まっている。先行きが不透明になり、世界中の金融機関が基軸通貨ドルの確保に動いているためである。日本の金融機関や企業がドルを調達するコストは、2011年の欧州債務危機を上回る水準に上昇した。特にドル不足が目立つのが円とドルを一定期間交換する「ベーシススワップ」取引である。その一方、為替市場では、円高ドル安傾向が続いている。なぜ英国の欧州離脱ショックが発生するとドル不足になるのか、なぜベーシススワップ市場と為替市場の動きが正反対なのかを検討していきたい。
イギリスがEUから離脱すると、EUとの今後の関係性や、英経済の中期的展望に関する不確実性が高まり、景気や雇用に悪い影響を与えかねない。そのリスクを回避するために、英国など欧州の金融機関はポンドからユーロ、ユーロからドルへと資金を逃がし、安全資産の米国債に投資をする。日本ではマイナス金利政策の影響で銀行などが積極的に外貨建て資産への投資を増やしているところに英国のEU離脱が重なった。日本の金融機関もドルの流動性不足が起きることを警戒し、急いでドル確保に動き始めた。そのため日本でも、急激なドル不足に陥った。
ところで、ベーシススワップはあらかじめ決められた金利で自国通貨と外貨を一定期間交換する取引なので、為替変動リスクが避けられるメリットがある。それに対して為替の直物市場では、相場が常に変動しているためリスクが高いものの、キャピタルゲインが期待できる。
そもそも金融機関は投機目的でドルを確保しているわけではなく、将来の金融市場リスクに備えるために、ドルの確保に動いている。そのため多くの金融機関が、激しく相場の変動する為替直物市場でドルを調達せずに、安全なベーシススワップ市場でドルを確保する。その一方、投機目的で為替の直物市場に参入している投資家などは英国の欧州離脱を受け、ポンドやユーロのキャピタルロスを回避するために、「安全通貨」とされる日本円にシフトした。その結果、ベーシススワップ市場ではドル調達コストが上がる一方、為替の直物市場では円高ドル安傾向が続いた。
ブレグジット(英国のEU離脱)ショックはまだまだ収束が見えないので、これからも、為替市場とスワップ市場がどう動いていくのかを注目していきたい。
なお、本レポートはあくまでも個人の意見です。(タツ)
【先進国経済(北米、欧州等)】
米、追加利上げ遠のく
(日経新聞・6月26日の記事参照)
英国のEU離脱を問う国民投票の結果を受けて、FRBの年内における追加利上げ姿勢の修正が迫られている。
これまで2016年内のFOMCが残り4回(7月、9月、11月、12月)のみとなっていることから、FRBが年内2回の利上げを維持するかが焦点となっていた。しかし、現在に至ってその見通しが急激に弱まってきている。その主な要因は、6月24日の英国における国民投票で離脱派が勝利したことにより市場参加者に欧州情勢の先行き不安がもたらされたことである。
この市場の混乱に伴い安全資産とされるドルが買われた結果、ドル高が進んでいる。そのため輸出停滞による貿易収支の悪化によって米国経済が停滞し、年内2回の利上げが見送られるか、または利下げとなる可能性が高まる。
このままドル高の進行によって自国経済が停滞した場合、11月の大統領選挙において民主党への逆風となるため、現政権は市場の動向にいっそう注視している。(よしよし)
【新興国経済(BRICS、アジア等)】
リオ州が財政非常事態宣言発令、五輪を理由に援助引き出す。州知事と大統領代行が会談
(日経新聞・6月21日の記事参照)
リオ五輪開幕まで残り49日となった6月17日、リオ州政府が財政危機による非常事態宣言を発令したと18~20日付ブラジル各メディアが報じている。
同宣言は、議会や財務省の承認なしに、連邦政府がリオ州政府に財政援助を行うことを可能にするもので、リオ州政府は、目前に迫った五輪とパラリンピックを滞りなく開催するために、少なくとも30億レアルの緊急援助が必要だとしている。
リオ州の財政危機は、人件費の増加や不況による税収悪化に加え、リオ州が依存してきたペトロブラス社からの石油生産に伴うロイヤリティの減少、五輪設備建設のための投資負担が重なって起きている。この影響は、公務員給与の遅配やそれに伴う複数個所の公共救急医療施設の閉鎖、法医学研究所の遺体受け入れ拒否、燃料不足による警察車両の輪番使用といった形で表れている。
さらにリオ州は社会経済開発銀行(BNDES)から9億9千万レアルの融資を受けることになっていたがその許可を得られておらず、その内5億レアルはリオ五輪の観客輸送計画の根幹となる地下鉄延伸工事に使われることになっている。もし融資が凍結されれば工事が中断される危険性がある。
リオ五輪組織委広報部長のマリオ・アンドラーダ氏は、「リオ州の財政危機は今起きたことではない。同宣言は大会に全く影響しない」との見解を表明した。この言葉通りに財政危機の影響を全く受けないかどうかは分からないが、オリンピックが無事に成功することを願いたい。しかし現在のブラジル国内の状況を見ると、五輪が成功したからといって経済をいい方向に傾けることは難しいだろう。(ヤマガタ・ケン)