2014年9月26日金曜日

 大学教育の再定義について

※後援会報  第48号(2014.8/1発行) 転載記事

真田 哲也(教授・経済経営学類長)

ミッションの再定義

昨年来、全国の国立大学は「ミッション再定義」に取り組んできました。経済経営学類は戦前戦後の伝統を受け継ぎ、< 日本経済・地域経済に貢献する人材の育成> をグローバル経済深化という今日的条件の下で遂行していくことを自らの使命として再定義しました。そのなかで文科省からは経済経営学類の震災以降の取組として「風評被害対策に取り組み、地域経済の復興を支援」したことが高く評価され福島大学の「強み」とされました。

震災当初から経済経営学類は被災地大学の使命として二つの課題を掲げてきました。(1)震災復興支援のために取組むこと、(2)地域の長期的発展につながる人材育成を強化すること、この前者の課題での取組が評価されたものです。(1) の課題は引き続き取組を強化します。たとえば原発事故で大きな被害を被った、福島の重要産業の一つである農業の人材育成が求められています。昨年経済経営学類は郡山市と連携協定を結びましたがこれもこの取組の一端です。

(2)についてもこれから一段と取組を強化していきます。大学教育における課題についてここでは二つのことを紹介したいと思います。

英語副専攻・特別選抜コースの新設

一つは、いわゆる「グローバル人材の育成」課題です。グローバル人材については様々な議論があり人材養成について各界からの要求は様々です。たとえば、「海外どこでも生活できる精神的強さ/適応力が必要である」、現地において「異なるやり方をブリッジ(翻訳)して調整する」能力が求められるなど。その議論すべてをここで総括することはできません。昨年閣議決定された「教育振興基本計画」では大学「卒業時の英語力の到達目標を設定する大学の数及びそれを満たす学生の増加」を目標として掲げております。まずは英語を中心とした語学力の強化が必要となっています。

経済経営学類では、これまでも「英語副専攻」や全日本人学生必修の「経済英語基礎」科目の設置、「海外インターンシップ」、中国語・ロシア語などの語学科目設置など語学力強化のカリキュラムを組んできました。今年から「韓国・朝鮮語」の教員も新たに赴任しました。来年度からこれを一層強化します。

具体的には、現在ある「英語副専攻」に「特別選抜コース」を設立して高度な実践的英語運用能力を習得させるための体系的カリキュラムを整備します。すでに毎年行っているアメリカでの「海外インターンシップ」プログラムをさらに充実させていきます。また経済経営学類生は入学から卒業まで複数回TOEIC 受験が義務付けられ取得スコアに基づいた学習指導を受けることになります。

グローカル人材の育成

グローバル人材育成の課題は、これまで指摘されてきた「社会人基礎力」「学士力」という課題を改めて今日の時点で世界水準から再定義したものと解釈できると思います。従来の大学教育の基本課題であった「自分の頭で考え、課題を解決する能力」の育成あるいは「読み書きなど汎用的能力を徹底的に身につけていく」ことがその根本にあるのは変わりません。これは市民としての自立力ともいえるでしょう。これについて昨年の閣議決定では「どんな環境でも『答えのない問題』に最善解を導くことができる力を養う」と表現されています。これがすべての土台です。

そしてそのうえで付け加えられる固有の課題、それがグローバルな課題に対応する人材育成と整理できます。ここには二つのタイプが考えられます。一つはグローバル企業や国際機関などで活躍するグローバルリーダー。もう一つはローカル経済やローカル企業の立場から世界市場への適応戦略の担い手となる、そのための素養や広い視野をもった人材。地方大学にある経済経営学類としては前者となる人材もいるでしょうが多数は後者のタイプの人材育成が課題になると考えられます。そのようなことから経済経営学類の主な教育方向として「グローカル人材」の育成という表現で教育課題の設定を進めているところです。

グローカルリーダーに必要な「教養」

もう一つは「教養教育改革」の課題があります。福大を卒業したあと、多くの卒業生は選びとった仕事に習熟しつつ、いずれはその仕事に関わる組織や企業のリーダー、或いは地域や自治体などのリーダー・中堅幹部になっていくことが求められ、世界の現実からいけば上述のような「グローカルリーダー」に成長していくことが求められます。そのためには何が必要でしょうか。これも多くの議論がありますが、その一つの答えは「教養」にあります。「教養あるマネジメントは人間本質に深い洞察を持ち、権力濫用の誘因を断ちつつ、組織の中で人を育て、自らの組織の社会におけるミッションを理解する」( ジョゼフ・マチャレロ) ということが必要とされます。グローバル・ローカルの状況の中で自分の仕事の使命を考えそこから組織をマネジメントするには広い視野・教養が必要なのです。こうした点から現代の教養教育のカリキュラムを構想する課題があります。残念ながらこの教養教育改革は経済経営学類だけでは決められない全学課題となっていてなお時間を要するのが現状です。とはいえ、現行のカリキュラムでも今年より「原子力災害と地域」「災害復興支援学」「地域論」などの科目を核とした特修プログラム「ふくしま未来学」を開設しました。これらの科目は21世紀型教養の一部をなすものです。震災という負の体験をこれらの科目受講を通して知的に考えることで前向きの教養に転換していくことが可能だと思います。積極的な受講が望まれます。

このように、経済経営学類は大学教育の絶えざる刷新に努めております。カリキュラムや教育体制などについて後援会の皆様の忌憚のないご意見・ご要望をお寄せください。