2017年12月9日土曜日

荒知宏ゼミレポート:2017年6-7月の経済問題

現在どのような経済問題が注目されているのか。荒知宏ゼミでは、毎週、「日本経済」、「先進国経済」、「新興国経済」に関する各紙の新聞記事を持ち寄ってディスカッションをしています。その中でも特に重要と考えた話題をピックアップし、このブログで月ごとに報告していきます。今回は2017年6月、7月の中から3つのトピックを選択しました。

※ゼミにおける議論をベースにしているため、ピックアップされる話題は網羅的にならないこともあります。
※内容について大きな誤り等がある場合はお知らせください。


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日本経済新聞2017年7月17日『物価予測なぜずれる?』

 7月中旬だというのにインターネットには夏物の「再値下げ」「Max90%オフ」の赤い文字が躍る。これは、日銀が予想する物価2%上昇の予想とは相反するものであり、予想と実態とのズレが目立つようになってきているように感じられる。物の物価は経済全体の需給ギャップから国内分を予想しエネルギーなど輸入物価を加えて計算するものだが原油も為替も現在は安定しているため、日銀の予想と実態がずれる理由は需給ギャップにあるものと思われる。日銀の企業や家計の物価上昇予想(インフレ期待)が実態以上に高く見積もられる傾向にあり、今や物価見通しは目標のような意味合いになってしまっているというような意見もあるようだ。インフレ期待が上昇すれば実質利子率が上昇すると考えられるため、結果的に投資を刺激し総需要の増加を引き起こすと言われている。故に、インフレ期待の上昇が実態よりも高く見積もられているために需給ギャップが正確に割り出せていないものと考えられるので、これが日銀の予想と実態のずれの原因になっているのではないかと考えられる。
 実態のインフレ期待が上昇しにくい理由としては企業や家計のデフレ意識が日本ではまだ根強く残っているということが考えられる。例としては近年のドラッグストアの成長が挙げられるのではないかと考えられる。ドラッグストアは「品ぞろえがよく、他店より安いという消費者の評価を受け、出店ペースは加速している」 と言われており、高齢化によるニーズの拡大も受けて今後も成長していくと考えられる。また、人手不足にもかかわらず賃金があまり伸びていないともいわれており、物価の上昇に勢いがつかない状態にあるともいわれている。「企業は賃金上昇というコストプッシュ要因を生産性の伸びで補って収益を増やしており、コストをまかなうための値上げを迫られていない」 というような見方もあり、人手不足が原因となって今後インフレ率が向上するという考えは早計であるのではないかと考えられる。生産性を向上させ、企業の収益率を高めることや労働者の長時間労働の是正などを進めることは必要だと思われるが、それがインフレ率の上昇に寄与するにはまだまだ時間がかかるのではないかと考えられる。
 では、日本がインフレ率2%の上昇を達成するにはどのような政策が有効だと考えられるだろうか。前述したとおり、省力化投資を進め企業の収益率を高めていくことは長期的な視点で見た場合必須だと思われるが、それ以外の政策として私は消費者の節約志向改革のために家計にお金を直接配るような方法がよいのではないかと考える。これまで長く続いたデフレにより、消費者の節約志向はまだまだ根強く、企業、特にコンビニやスーパーをはじめとした小売店のように取り扱う財に差を生み出しにくく、消費者との距離が近く、競争相手が多い場合は値上げをしにくいのではないかと考えられる。企業側も消費者の需要の変化に合わせた商品を発掘していくというプロダクト・イノベーションを進めていくことは必要だと思われるが、より直接消費者の可処分所得を増やし消費を増やす働きを積極的にしてもよいのではないかと考えられる。しかし、この考えには大きく分けて2つの問題点が挙げられると思われる。一つ目は将来への不安等から収入が増えたとしても貯金に回ってしまい、消費の増加にはつながらないのではないかという問題、二つ目は財源の確保の問題である。一つ目の問題への解決策として、家計の貯金をより資産運用に回しやすい環境を作っていくことが挙げられるのではないかと考える。インターネットやスマートフォンの普及により、資産運用が普及しやすい環境は物理的には十分に整えられているのではないかと考えられる。故に、消費者が投資をするインセンティブを高めることが必要ではないかと思われる。そのためにも、NISAなどのサービスに対する認知度を高めることや、投資信託を始めることを条件とした補助金の交付などが有効ではないかと考える。金利がゼロに等しい日本では銀行の預金に回しても資産が増えないというのが実態であるため、投資信託に回るお金を増やすことで多少でも資産を増やすことが有効ではないかと思われる。しかし、効果は限定的なようにも思われるため今後も検討していきたいと思う。2番目の問題としては、企業や家計の消費や投資が増加することで税収が増える為、補える可能性があると思われる。しかし、日本の財政は世界の中でも悪いと言われており、この点についてはよく吟味することが必要だと思われる。特に、社会保障費については年金支給開始年齢の引き上げなどが話題に挙げられているものの、少子高齢化が今後も進行していくと考えられるため対応は一筋縄では決していか無いと思われるため、継続して検討していくべき課題だと考えられる。
 今年の4月24日に発表されたヤマト運輸の値上げを皮切りに拡大しつつあるサービス業を中心とした値上げや省力化投資が今後、日本のインフレ率にどのような影響を与えていくのか、また社会はどのように変わっていくべきなのか、今後も検討していきたいと思う。
i  『ドラッグ店 小売りの主役』 日本経済新聞 2017年7月9日
ii  『省力化投資、賃金と価格抑制』 日本経済新聞 2017年7月22日
(ミスターK)

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日本経済新聞電子版2017年7月10日『保護主義の連鎖回避へ協調再構築を』

 7月7、8日にドイツ・ハンブルクで開催されたG20首脳会議は「保護主義を回避すること」を首脳宣言として盛り込んで発表した。アメリカでは鉄鋼の輸入制限措置が検討されていて、その動きに対してEUはアメリカが輸入制限措置をとるならば、報復措置をとることを検討しているという。このようにトランプ政権誕生以来、保護主義拡大の懸念が広がっている。以上がこの記事の大まかな内容である。
 この記事についてゼミでディスカッションをしていくなかで2つの今後の課題を得ることができた。1つめに、先進国経済時事を調べていくならEPAにも注意していくべきではないかという提案があった。そこで最近のEPAの話題として「日欧EPA」の例を挙げたい。7月6日にブリュッセルで日本とEU間のEPA(経済連携協定)が大枠で合意に至ったことが正式表明された。このEPAの中身として、EUは日本車にかけていた最高10%の関税を7年で撤廃し、日本産の緑茶や日本酒にかけている関税を即時撤廃する。一方の日本はEUから輸入するワインにかけているボトルワイン一本当たり最高93円の関税を即時撤廃することなどが挙げられる。保護主義拡大の懸念がある世界経済の状況に日欧EPAという新しく大きな経済圏は小さくはない影響を与えるだろう。今後の日欧EPAの動きを注視していきたい。2つめに、記事からEUはアメリカが輸入制限措置をとった場合の報復措置を検討していることが分かったが、その対象がウイスキーや酪農製品であるということも記事に記述があった。アメリカの輸出品目としては航空機や自動車をイメージしていたので報復措置対象の品目はかなり印象的だった。このことからアメリカとEUの関係について今まで以上に興味を持った。アメリカとEU間の貿易品目やアメリカでのウイスキー産業や酪農業の立ち位置について調べていけば、EUの報復措置対象にウイスキーや酪農製品が選択される理由が分かるのではないかと考えたので今後調べていきたい。
(佐々木)

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インド 海外企業の生産拡大

 インドで電機メーカーの生産拡大の動きが活発になっている。現在はパナソニックやサムスン電子などの日韓企業が先行しているが、それを追う形で中国の美的集団は80億ルピー(約140億円)を投資して工場を新設し、台湾の鴻海精密工業はスマートフォンなどの受託生産能力を拡大する。
 このようにインドで家電の生産が拡大する理由のひとつは、インドが大きな市場であることだ。人口13億人、高い経済成長を続けているインドでは、家電の国内市場が拡大しており、今後もそれが続く見通しだ。現地で生産することで、現地の住民に合った国内向けの製品を作りやすくなる。また、人件費も中国より安いため、人件費が上昇している中国に代わる製造拠点としても注目されている。その他にも、物品サービス税(GST)導入により事業活動がしやすくなることも生産拡大の要因に挙げられるだろう。7月1日にGSTが導入されたことで、いままでばらばらだった州ごとの税率が統一されモノの移動も格段に改善された。GST導入直後は多少混乱するだろうが、事業環境の改善によりこれからさらに生産は拡大していくと考える。
 インドは市場としても、生産拠点としても重要な国であり、多くの海外企業が注目している。さらに、モディ政権も海外企業の投資の誘致に活動的であり、GST導入によってビジネス環境も改善してきているという、まさに進出する絶好の機会といえるだろう。インドはこれからも成長を続けると考える。
記事
日本経済新聞 電子版 2017年7月5日 中台の電機メーカー、インド生産拡大
(三浦)