2018年2月13日火曜日

平野 智久(准教授):「書評のすすめ」

福島大学附属図書館報『書燈』No.51 (2017年10月発行) 転載記事

「書評のすすめ」
 平野 智久(准教授)

 学術情報課より「リニューアルした図書館を利用して」という題名での寄稿依頼がありました。増築・改修工事前の記憶はあやふやですが2012年10月に着任した時点で、会計学(財務会計論)を専攻する筆者にとって、蔵書は充実している印象を受けました。さすがは高商~経専~経済学部と受け継いできた証左か、関連する本がきちんと揃っている図書館とは心強いものです。これまでに本学で教鞭を執った先生が一冊々々吟味していった賜物であって、しきたりを絶やしてはならないと出版社の新刊情報に気を配る毎日です。

 さて、本学図書館の蔵書は90万冊を超え、2015年度には7千冊を受け入れています。学生向けの新着本は本館2階「開架閲覧室」手前に1~2ヵ月は置かれますので、選書した新刊がさっそく手に取られ貸し出されていくと嬉しく思います。しかし次の「新着」が届けば、それらはNDC(日本十進分類法)順に配置されます。近年はカバーを取り外さずに書架へ並べられ、出版されて時間の経った本と並べば「埋もれる」ことはないものの、背表紙しかパッとは見えない状況から目的の本に辿り着くことは簡単ではないかもしれません。ここでの「目的」とは「○○について述べられた本を読みたい」という段階です。これまでの文脈に逆行するかもしれませんが、埋もれた本にも一読の価値があるかもしれませんし、新刊だからといってすべてが大学生の学習や研究に有用かはわかりません。実のところ筆者はむしろ、「何十年後に誰かが読みたいかもしれない」という観点で選書しています。「会計学は制度がコロコロ変わって(良くも悪くも)大変ですね」という声を耳にすることもありますが、侃侃諤諤の議論から現行制度は生まれたと考えれば、歴史家でなくとも過去の議論や先達の主張を渉猟することには意味があるはずです。

 とはいえ、○○に関する本のすべてに目を通すことはもちろん容易ではありません(現状では、そもそも学類生諸君は書庫に入れません)ので、「書評を眺める」探索を勧めます。会計学の場合には、『企業会計』『産業経理』『會計』『会計・監査ジャーナル』といった定期雑誌に掲載されており、出版から 1 ~ 2年の新刊について各領域の専門家が1 ~2千字程度で執筆しています。著者の紹介、章ごとの要約に言及したのち、評者の感想や疑問を述べて締め括る形式が多くみられます。直接は関心のなさそうな本でも、書評をとおして内容を気軽に把握することができます。同じ本を複数誌が取り上げていれば、一方の評者は褒めているのに他方はそうでないことも間々あります。評価が割れた理由を考えながら現物を手に取る(書庫にある本もカウンターで申し込む)、という読み方も大いに「あり」でしょう。

 工事を経て、多くの和雑誌や他大学の紀要を開放的な新館1階で閲覧できるようになりました(着任当時はそういえば、一部が未製本のまま雑然と置かれていました)。特定の1冊が決まっていれば、書評の掲載誌やその他の研究成果はNDL-OPACやCiNii Articlesなどで簡単に検索できます。叙上の4誌も数十年前の巻号から手に取ることができるので、「当時はこういう本が読まれていたんだなぁ」という時間のすごし方もまた一興です。